活躍する同窓生 第4回 津金篤子さん

活躍する同窓生 第4回 津金篤子さんです(家政科 45年卒)

子供の頃から手仕事が好きだった私は、将来の進路を決める時、迷わず短大家政科に進みました。家政科では、一般教養、和裁、洋裁料理と家政全般を学びましたが、当時、神戸のニットデザイナーの草分け的存在であります市野木悦子先生との運命的な出会いがあり、次第に「編み物」の世界に惹かれていくことになりました。短大を卒業した時点で、仕事として編み物に関わっていけるように、在学中から神戸の「市野木ニッティングスタジオ」に通い始めました。2年後、編み物師範の資格を取りましたが、プロを目指すには洋裁の知識も更に深める必要があり、海星時代、家政科の洋裁の授業でお世話になった小原先生の関係で小川洋裁学院に進みました。編み物と洋裁の両方を勉強して(洋裁は、あくまで編み物の助けと思って始めたためでもあるのでしょうが)私に合っているのは、やはり編み物でした。洋裁は、「布」から、編み物は「糸」からのスタートなので難しくはありますが、それ故に奥が深く、予想通りにいかない難しさに振り回されながらも、挑戦し甲斐があります。

市野木ニッティングスタジオでは、編み物本に掲載する作品作り、寸法直し、オーダーの仕事、ファッションショーの作品や舞台衣装と多岐にわたり大変勉強になりました。本に掲載する場合は、作品を単に編み上げるだけではなく、読者が編みたくなるような分かり易い編図まで考えます。寸法直しは、自分が編んでいない作品に鋏を入れるので、かなり緊張しました。ファッションショーの場合は、制作だけでなくショー当日の衣装係りや点検も気が抜けない仕事です。華やかな舞台裏は、大変です。ショーを開催するホテルに前日から泊り込み、ショー直前の手直しをした思い出もあります。NHK文化教室では、10年間市野木先生の助手としてお手伝いもさせていただきました。20代~70代の生徒さん達、初心者からベテランの方までいろいろなタイプの方々に教える機会を与えられ、逆に私の方が学ぶことが多く大変勉強になりました。

1970年代は、「編み物」といえば、まだ“普段着”感覚で、ほどいて子供のセーターに編み直す…というようなイメージが強い時代。その編み物を、“普段着”から“ファッショナブルなお洒落着”にまでレベル・アップするために活躍されている素晴らしい先生方との出会いに恵まれ、私はますます、ニットの世界に魅力を感じてました。

もう一人の私の大切な先生は、ファッションデザイナーで日本を代表するカラーリストの秦砂丘子(はた すなこ)先生です。秦先生のデザイン教室で色彩学を学び、また2001年まで30年間続けてこられたコレクション(ファッションショー)の制作に市野木先生のもと、お手伝いをさせていただきました。秦先生のショーの作品は、頭から足元まで、例えば帽子から履物まで全て編み物でコーディネイトの上、ドレス部分は何枚もの重ね着になる作品が多くトータル何点にもなります。その上、編地に刺繍をしたり、テープをはったり…写真を掲載出来ないのが残念ですが、糸の素材と色彩が自由自在に織りなすイメージは編み物ならではの世界で、これは実に芸術作品です。(ご興味のある方は、秦砂丘子先生のウェブサイトをお楽しみください)

毎年、4月頃、秦先生からデザイン画、製図、糸がドッと送られてきます。デザイン画からその雰囲気を出せる編地の硬さを考え、何種類かのサンプルを作って送ります。今のように一日で荷物が届く時代ではなかったので、何をするにも時間がかかりました。何度も何度も打ち合わせをしながら9月の本番に向け、毎年暑い夏の間糸と格闘です。7~8月に衣装合わせがありますが、国際的に活躍されている超一流のモデルとのスケジュール調整も大変でした。モデルサイズに合わせたミニのドレスも私が着るとロングドレスです。最後の仕上げをして完成。作品を送り終えた時に「今年も終わった~!」と込み上げる達成感、充実感が忘れられません。制作中は必死でしたが、今となっては、この経験は、私の大切な宝となっています。

現在、市野木ニッティングスタジオの制作チーフとして、フランスの手編み作品を紹介する仕事に携わっています。近頃は、編み物をする人も少なく、編み機も製造されなくなり寂しい限りです。ですが、本来の編み物の温もりを、これからもまだまだ伝えて行きたいと思っています。現在所属している全国編み物手芸講師会(KCS)、そうび会(市野木悦子主宰)は、そういう想いをもった講師達の集まりです。

私は、子供達に寂しい思いをさせてまで仕事を続けるつもりはありませんでしたので、編み物はその点、家族第一の私にもできる仕事でした。三人の子供を鍵っ子にすることもなく、学校に行っている間はニッターとして、帰ってきたら母親として、家庭と仕事を両立させて頑張りました。家族の理解のお陰で約40年間続けてこられたことに感謝しています。二人の先生を初めいろいろな人々と素敵な出会いがありましたのも、編み物を続けてきたお蔭です。

今回、このようなチャンスを頂き、思いがけず40年の仕事の歩みを振り返ることができました。編み物を愛し、家族を愛し、ただコツコツと歩んできた道ですが、ささやかながら一つのことを続けることの素晴らしさを少しでもお伝えできれば嬉しいです。

津金篤子さん制作の作品